1. 「○○万円の壁」とは?
「103万円の壁」や「130万円の壁」といった言葉は、パート・アルバイト・主婦(扶養内勤務)などで働く人が気にする“年収の境界線”を指します。
この“壁”を超えると、
- 所得税や住民税の課税が始まる
- 配偶者控除が受けられなくなる
- 自分で社会保険(年金・健康保険)に加入する必要が出てくる
といった影響があり、「手取りが減る」ために注目されています。
ただし近年は制度が少しずつ見直され、「壁」を越えても損しにくい仕組みになりつつあります。
2. 「103万円の壁」とは(所得税の壁)
● ポイント
103万円の壁とは、「所得税がかかるかどうか」を決める基準です。
● 計算の仕組み
パート・アルバイトの多くは「給与所得者」扱いとなり、所得税は以下の式で計算されます。
課税所得 = 年収(給与) − 給与所得控除 − 基礎控除
給与所得控除は55万円、基礎控除は48万円のため、
55万円 + 48万円 = 103万円までは所得税がかからないという仕組みです。
● つまり
年収が103万円以下 → 所得税は0円
年収が103万円を1円でも超える → 超えた部分に対して所得税が発生
ただし、年収が104万円や105万円になった程度では、税額は数百円〜千円程度です。
「少しでも超えたら損」ではなく、「超えた分だけ税金が増える」という考え方が正解です。
3. 「106万円の壁」とは(社会保険の加入基準・企業勤務者向け)
2022年・2024年の法改正で注目されているのが、「106万円の壁」です。
● 概要
一部のパート・アルバイトは、年収106万円を超えると自分で社会保険(健康保険+厚生年金)に加入しなければならなくなります。
● 対象者の条件(2025年時点)
以下の5条件をすべて満たす場合に適用されます。
- 勤務先の従業員数が101人以上(2024年改正で範囲拡大)
- 年収が106万円以上(月8.8万円超)
- 週の労働時間が20時間以上
- 勤務期間が2か月を超える見込み
- 学生ではない
● 加入後の変化
社会保険料の負担が発生する一方で、
- 将来の年金額が増える
- 医療費が3割負担になる
- 産休・育休給付金が受けられる
などのメリットもあります。
厚生年金に加入できるパートは、将来的な受け取り額で見ると“お得”になるケースが多いです。
4. 「130万円の壁」とは(社会保険の扶養から外れるライン)
こちらは主に「配偶者の扶養に入っている人」が対象です。
● 基本ルール
年収が130万円(おおむね月収10万8,333円)を超えると、
配偶者(夫・妻)の社会保険の「扶養」から外れ、
自分で国民年金・国民健康保険に加入する必要があります。
● 扶養から外れた場合の負担
国民年金:約1万6,520円/月(2025年度)
国民健康保険:所得により月1万〜2万円程度
つまり、130万円を超えると年間30万円前後の社会保険料負担が発生します。
ただし、働き方によっては「106万円の壁」で厚生年金に加入するほうがトータルで有利な場合もあります。
5. 「150万円の壁」とは(配偶者控除・配偶者特別控除の境界)
● 配偶者控除とは
配偶者(主に夫)が所得税を申告する際、妻(あるいは夫)が一定の収入以下であれば税金を軽減できる制度です。
配偶者の年収が103万円以下 → 配偶者控除(最大38万円)を満額適用
年収103万円超~201万円以下 → 配偶者特別控除(段階的に減少)
● 150万円の壁の意味
年収が150万円以下なら、配偶者特別控除が満額適用されます。
つまり、103万円を超えても、150万円までは税制上の優遇をほぼ受け続けられるということです。
6. 「160万円の壁」とは(2025年以降に意識すべき“新しい目安”)
2023年から政府が導入した「年収の壁・支援強化パッケージ」によって、「150万円の壁」を超えた人を支援する制度が始まりました。
● 対象
パート・アルバイトで働く人
年収が150万円を超え、配偶者特別控除の減額対象になる人
● 支援内容(企業を通じて実施)
企業が従業員に対して手取りを減らさないための手当を支給した場合、
政府がその企業に補助金を出す仕組みです。
実質的に、160万円程度までは「手取りが減らないよう調整できる」ようになっています。
● ポイント
これまで「150万円を超えると損をする」と言われていた壁が、
「160万円くらいまでなら大きな影響がない」ように政策的に緩和されたのです。
7. 「壁」を超えるとどうなる?手取りシミュレーション
| 年収 | 税金 | 社会保険 | 手取り(概算) |
|---|---|---|---|
| 100万円 | 0円 | 0円 | 約100万円 |
| 130万円 | 所得税ほぼ0円 | 0円(扶養内) | 約130万円 |
| 140万円 | 所得税+住民税 約3万円 | 0円 | 約137万円 |
| 150万円 | 税金 約5万円 | 0円 | 約145万円 |
| 160万円 | 税金 約7万円 | 扶養外(保険料約30万円) | 約123万円(※) |
(※「130万円の壁」で扶養を外れた場合の目安)
つまり、130万円を超えると社会保険料負担が一気に増えるため、「壁」を越えるなら160万円以上を目指す働き方にシフトしたほうが有利になるケースが多いです。
8. 2025年以降は「壁」を意識しすぎない働き方へ
政府は2023年以降、「壁を気にして働く人が増えすぎて経済全体に悪影響がある」として、企業支援や制度緩和を進めています。
今後は、社会保険加入でもメリットを感じられる仕組み(厚生年金・給付金)160万円付近まで実質的な“手取り減少”を緩和といった流れが続く見込みです。
つまり、「扶養内で抑えるよりも、しっかり働いて収入を伸ばすほうが得になる」ケースが増えています。
9. 壁を上手に乗り越える3つのポイント
① 「壁ギリギリ」で止めず、思い切って超える
103万円や130万円を数万円超えただけだと、税金や保険料が増える分だけ損。
働く時間を増やすなら、160万円を目安に“壁を一気に超える”のがコツです。
② 企業の「手当・調整制度」を確認する
政府の支援制度を活用して「壁超えパート」を支援する企業が増えています。
勤務先の人事や総務に確認し、手取り減少が緩和されるかチェックしましょう。
③ 夫婦でトータル最適化を考える
「妻の収入を抑える」よりも、「夫婦で働き方を最適化して世帯年収を増やす」方が賢い選択です。
配偶者控除よりも、共働きによる可処分所得アップのほうがリターンが大きいことが多いです。
10. まとめ:103万円・130万円・160万円の壁を正しく理解しよう
| 壁 | 内容 | 主な影響 |
|---|---|---|
| 103万円 | 所得税が発生 | 所得税がかかるライン |
| 106万円 | 社会保険加入義務(企業パート) | 厚生年金・健康保険加入 |
| 130万円 | 配偶者の扶養から外れる | 国民年金・国保の負担発生 |
| 150万円 | 配偶者特別控除の満額ライン | 夫の税控除に影響 |
| 160万円 | 政府の支援対象範囲(実質的な壁緩和) | 手取り減少を抑える制度あり |
【結論】「壁」を気にしすぎず、自分の働き方で考える
「103万円・130万円・150万円・160万円」——これらの“壁”は確かに存在しますが、制度は年々見直され、「越えても損をしない」方向へ変化しています。
これからは、「税金を払わないように働く」よりも、「払ってもなおプラスになるように収入を伸ばす」ことが大切です。
自分の生活スタイル・将来の年金・家庭の収支バランスを踏まえ、“壁を恐れず、上手に使いこなす”ことが、これからの賢い働き方と言えるでしょう。















